
「PFASフリー」という言葉を耳にする機会が増えました。日用品や工業製品などに幅広く使われてきたPFASですが、近年は健康や環境への影響が指摘され、国内外で規制や管理の動きが進んでいます。
本記事では、PFASフリーとは何かをはじめ、規制や管理の対象となっている物質の見分け方、指摘されている健康リスク、安全性に配慮した代替加工の選択肢まで、順を追って解説します。
そもそもPFASとは
PFAS(ピーファス)とは、炭素とフッ素が結合した有機フッ素化合物の総称です。撥水性や撥油性、耐熱性、耐薬品性に優れていることから、工業製品や日用品など幅広い分野で長年利用されてきました。
PFASに分類される物質の数は、化学的な定義が見直されてきた経緯もあり、資料によって数千種類から1万種類以上まで幅があります。PFASには、炭素とフッ素の結合が非常に強く、環境中で分解されにくい物質が多く含まれます。この性質から「永遠の化学物質」とも呼ばれています。
こうした性質を持つため、一度環境中に排出されると長期間残留し、生物の体内に蓄積する可能性があります。こうした性質が、後述する健康リスクへの懸念や規制強化の背景となっています。
PFASが使用されている製品の例
ここまで、PFASがどのような物質かを紹介しました。それでは、実際にどの程度の人がPFASを知っているのでしょうか。
株式会社NEXER Groupと関西ポリマー株式会社が共同で実施したアンケート調査で「PFAS(ピーファス/有機フッ素化合物)という言葉について、あなたはどの程度ご存じですか」と尋ねたところ「まったく知らない」と回答した人が74.0%にのぼりました。
アンケート引用元:https://kansaipolymer.co.jp/column/PFAS_Survey
一方で「成分の内容や、健康・環境への影響まで知っている」と答えた人は、わずか3.0%にとどまっています。
このように、PFASという言葉自体の認知度は決して高くありません。しかし実際には、PFASはさまざまな場面で使われています。具体的にどのような製品があるのか見ていきましょう。
PFASが使用されている日用品の例
日用品では、PFASの撥水性や耐熱性、耐油性などを活かして、さまざまな製品に使用されてきました。代表的なものは以下のとおりです。
調理器具:フライパンなどのコーティング
衣類・アウトドア用品:防水・撥水加工
紙製品:紙コップなどの耐油加工
スプレー用品:撥水スプレー
化粧品:一部の化粧品
このように、PFASは水や油をはじく性質などを活かして、暮らしのさまざまな場面で利用されてきました。
PFASが使用されている工業製品の例
工業分野でも、PFASは耐熱性や耐薬品性、非粘着性などを活かして、さまざまな用途に使用されてきました。代表的なものは以下のとおりです。
半導体製造:フォトレジストや薬液配管など
金属加工:金属メッキ処理剤など
製造ライン:部品に施す非粘着性コーティングなど
とくに耐熱性や耐薬品性、非粘着性が求められる現場では代替が難しいケースもあります。そのため、規制対象が広がるほど、代替材料の選定や加工方法の見直しなど、製造現場の対応が必要になります。
PFASが問題視されている背景
これほど便利な物質が、なぜここまで問題視されるようになったのでしょうか。ここでは、PFASが人体に取り込まれる経路と、指摘されている健康リスクについて解説します。
環境中に残留し続けるという特性
PFASは炭素とフッ素の結合が非常に強く、自然界でほとんど分解されないという特性にあります。
この性質から「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれ、一度環境中に排出されると、土壌や河川、地下水などに長期間とどまり続けます。分解されにくいということは、時間が経っても濃度が自然に下がりにくく、排出源が少量であっても、長期間・広範囲にわたって蓄積が進む可能性があるということです。
予防原則にもとづく規制の広がり
PFASの健康影響については、現時点でも研究が続いている段階で、すべてが科学的に確定しているわけではありません。しかし、化学物質のリスク管理においては、因果関係が完全に証明されるのを待ってから規制するのではなく、「人の健康や環境に重大な影響を及ぼす可能性が疑われる場合には、科学的な確証が得られる前でも予防的な措置を講じる」という「予防原則」の考え方が国際的に広く採用されています。
人体への健康リスク
PFASのなかでも代表的な物質(特にPFOA・PFOS)については、健康への影響に関する研究が進められています。世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)は、2023年にPFOAを発がん性が「ある」グループに、PFOSを発がん性の「可能性がある」グループに分類しました。
出典:国際がん研究機関(IARC)「IARCモノグラフは、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)およびペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の発がん性を評価している。」(https://www.iarc.who.int/news-events/iarc-monographs-evaluate-the-carcinogenicity-of-perfluorooctanoic-acid-pfoa-and-perfluorooctanesulfonic-acid-pfos/)
IARCの評価は、特定の物質がヒトに対して発がん性を示す根拠がどの程度あるかを示すものです。実際の摂取量でがんが発生する可能性の大きさを直接示すものではありません。
内閣府の食品安全委員会も、通常の食生活を送るかぎり、PFOSやPFOAの摂取によって著しい健康影響が生じる状況にはないと評価しています。ただし、長期間にわたって体内に蓄積する性質があることから、慎重な対応が求められています。
一部のPFAS(PFOA・PFOS)については、ワクチン接種後の抗体反応が弱まる可能性は否定できないものの、関連の強さや確実性については研究によって差があり、継続的な調査が行われています。
一部のPFAS(PFOA・PFOS)についてはコレステロール値の上昇や、甲状腺機能への影響が指摘されているほか、動物実験では生殖機能や胎児の発育への影響も報告されています。これらの内分泌系への影響については、各国の専門機関が現在も継続的に検証を進めている段階です。
出典:内閣府 食品安全委員会「PFASの食品健康影響評価について」(https://www.fsc.go.jp/osirase/pfas_health_assessment.data/PFAS_kaisetsu.pdf)
出典:国立研究開発法人 国立環境研究所「免疫疾患におけるPFASの免疫抑制および免疫促進影響の解明に向けた実験的検証(令和6年度)」(https://www.nies.go.jp/research/subjects/2024/27162_fy2024.html)
日本・世界で進むPFASの規制状況
PFASへの懸念が高まるなか、日本国内や海外では規制やリスク管理の取り組みが進められています。ここでは、代表的な規制の枠組みを紹介します。
ストックホルム条約による規制
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)は、難分解性や生物蓄積性、毒性を持つ化学物質の廃絶・制限を国際的に定めた条約です。
PFOSは「制限」を意味する附属書Bに、PFOAやPFHxSは「廃絶」を意味する附属書Aに位置づけられており、加盟国には製造・使用・輸出入の禁止や制限といった対応が求められています。
日本におけるPFAS規制
日本国内でも、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)や水道法をはじめとする各種法令で、PFASに関する規制が段階的に強化されています。とくに近年は、化審法における対象物質の指定に加え、水道水やミネラルウォーターの基準改正が相次いでいます。
化審法では、PFOS、PFOA、PFHxSの3物質が第一種特定化学物質に指定されており、製造・輸入・使用が原則禁止されています。特定の用途を除き、企業がこれらの物質を扱うことは事実上できません。
さらに規制範囲は段階的に広がっており、2025年12月および2026年4月の政令・省令公布により、「PFHxS関連物質」117物質が新たに第一種特定化学物質へ追加され、2026年6月17日に施行されています。撥水・撥油加工を施した生地や消火薬剤など、対象となる一部製品の輸入も禁止されており、今後も対象物質の追加が想定されます。
出典:経済産業省「第一種特定化学物質一覧」(https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about/class1specified_chemicals_list_latest.pdf)
環境省は2025年6月30日、水道水中のPFOSおよびPFOAについて、これまでの暫定目標値に代わる正式な水質基準を新たに設定する省令を公布しました。2026年4月からは、水道事業者に対してPFOSとPFOAの合算値を50ng/L(0.00005mg/L)以下に保つための検査と基準の遵守が法的に義務付けられています。
出典:環境省「『水質基準に関する省令の一部を改正する省令』及び『水道法施行規則の一部を改正する省令』の公布等について」(https://www.env.go.jp/press/press_00075.html)
消費者庁は2025年6月30日、食品衛生法にもとづく規格基準を改正し、ミネラルウォーター類のうち殺菌または除菌を行うものについて、PFOSとPFOAの合算値を50ng/L以下とする成分規格を新たに設定しました。
2026年3月31日以前に製造・輸入された製品には経過措置がありましたが、現在は新基準(50ng/L以下)が適用されています。
出典:消費者庁「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する告示(令和7年内閣府告示第105号)」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_250630_001.pdf)
EU・米国におけるPFAS規制
海外でもPFASへの規制強化が進んでいます。とくにEUでは、化学物質規制と包装材規制の両面で新たなルールの整備が進んでおり、輸出企業は双方の動向を押さえておく必要があります。
EUの化学物質規制であるREACH規則では、PTFEなどの高分子化合物も含めた1万種類を超えるPFASを一括で規制する案が検討されています。
この提案は、デンマーク・ドイツ・オランダ・ノルウェー・スウェーデンの5カ国当局が2023年1月に提出したもので、欧州化学品庁(ECHA)のリスク評価委員会(RAC)は2026年3月に最終意見を採択し、社会経済分析委員会(SEAC)も同時期に意見案を公表、2026年5月25日までパブリックコンサルテーションを実施しました。
SEACの最終意見は2026年内に取りまとまる見込みで、その後、欧州委員会が規制案(REACH附属書XVIIの改正案)を作成し、加盟国や欧州議会での審議に進みます。規制が確定した場合は、猶予期間を経て、対象となるPFASの製造・使用・上市が原則禁止となる可能性があります。
EUでは、包装・包装廃棄物規則(PPWR)により、2026年8月12日から、一定濃度以上のPFASを含む食品接触包装材をEU市場に出すことが制限されています。対象となる包装材には、食品容器や食品包装紙などが含まれます。
日本国内でもEU向け製品を扱うメーカーなどでは、こうした規制を踏まえた代替材料や加工方法の検討が重要になっています。
アメリカでは、環境保護庁(EPA)の呼びかけにより、2006年から主要なフッ素化学メーカー8社が参加する「PFOA自主削減プログラム」が進められました。2010年までに排出量や製品中の含有量を95%削減し、2015年までにPFOAなどの廃絶を目指す取り組みで、参加企業はいずれも目標を達成したとされています。
国による法規制とは別に、行政と企業が連携して自主的な削減を進めた事例といえます。
アメリカでは、連邦レベルの規制に加え、各州が独自にPFAS規制を進める動きも広がっています。食品包装材や調理器具、衣料品など、対象となる製品の種類は州によって異なり、規制内容も年々更新されています。
たとえば、カリフォルニア州の「プロポジション65」では、化粧品や調理器具を含む幅広い消費者向け製品を対象に、PFOAやPFOSなど発がん性・生殖毒性が指摘される物質にさらされる可能性がある場合、警告表示を行うことが義務付けられています。
【注意】すべてのPFASが危険なわけではない
ここまで規制の動きを見てきましたが、PFASに分類される物質のすべてが危険というわけではありません。ここでは、誤解されやすいポイントを解説します。
PTFEなど規制対象ではないPFASもある
PFASには、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のように、現時点で日本の化審法による規制対象となっていない物質もあります。PTFEは耐熱性や耐薬品性、非粘着性などに優れたフッ素樹脂で、フライパンなどの調理器具にも使われています。食品安全委員会も、フッ素樹脂について安全性に関する情報を整理しています。
ただし、PFASは非常に多くの物質を含む総称であり、すべてが同じ性質や規制を持つわけではありません。日本ではPFOS、PFOA、PFHxSなどが化審法の規制対象となっている一方、PTFEなどは現在の規制対象とは扱いが異なります。
なお、EUではPFAS全体を対象とした規制案の検討が進んでおり、2026年にはECHAの科学委員会が規制の方向性を支持する意見を相次いで示しています。ただし最終決定にはまだ時間がかかる見通しで、今後、PTFEを含むフッ素系材料の扱いが変わる可能性もあるため、最新の規制動向を確認することが大切です。
出典:内閣府 食品安全委員会「ファクトシート」(https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f02_fluorocarbon_polymers.pdf)
歯磨き粉に含まれるフッ素はPFASではない
歯磨き粉やむし歯予防のフッ素塗布に使われるフッ素は、フッ化ナトリウムなどの無機フッ素化合物です。一方、PFASは炭素とフッ素の結合を持つ有機フッ素化合物の総称で、化学構造が異なります。
そのため「フッ素」という言葉が含まれているからといって、歯磨き粉などに使われるフッ化物をPFASと同じものとして考える必要はありません。
PFASの代替「PFASフリー」とは
規制対象となる特定のPFASを避けつつ、これまでと同等の機能を実現する選択肢として注目されているのが「PFASフリー」です。ただし、PFASフリーには画一的な定義があるわけではありません。どの物質を対象外とするかは、メーカーや業界によって考え方が異なります。
フッ素樹脂は化学的に安定した構造を持ち、優れた性能を数多く備えているため、完全に同等の代替品を見つけることは簡単ではありません。そのため、どのような技術的根拠でPFASフリーを実現しているのか、加工先の考え方を確認することが重要です。
PFASフリーのコーティングの例
規制対象となる特定のPFASを避けつつ、これまでと同等の機能を実現する選択肢として注目されているのが「PFASフリー」です。ただし、PFASフリーには画一的な定義があるわけではありません。どの物質を対象外とするかは、メーカーや業界によって考え方が異なります。
フッ素樹脂は化学的に安定した構造を持ち、優れた性能を数多く備えているため、完全に同等の代替品を見つけることは簡単ではありません。そのため、どのような技術的根拠でPFASフリーを実現しているのか、加工先の考え方を確認することが重要です。
無機系コーティング
無機系コーティングは、無機材料を主成分とする表面処理です。PFASを含まない製品もあり、フッ素樹脂コーティングの代替として、非粘着性や耐摩耗性などの性能を備えたものが開発されています。関西ポリマー株式会社でも、無機系塗料を使用したPFASフリーコーティングを取り扱っています。
なかでもセラミックコーティングは、非粘着性や耐摩耗性に加え、高い硬度や耐熱性を備えているのが特徴です。関西ポリマー株式会社の製品には鉛筆硬度9Hの仕様もあり、フッ素樹脂コーティングより低い温度で加工できる製品もあります。
また、同社では粘着テープやホットメルトなどの付着を防ぐ「無機系超非粘着コーティング」も取り扱っています。用途や求める性能に応じて、適したPFASフリーコーティングを選択できます。
PFASフリーのコーティングについて詳しく知りたい方は、関西ポリマー株式会社の製品カタログをご覧ください。用途や目的に応じたコーティング製品や技術資料を確認できます。
ポリウレタンコーティング
ポリウレタンコーティングは、耐摩耗性・耐衝撃性・柔軟性に優れる表面処理です。連続使用温度の目安は70〜110℃程度で、フッ素樹脂コーティング(約260℃)と比べると耐熱域は大きく下回りますが、ローラーや搬送用部品など、衝撃や摩耗が繰り返し生じる部位の保護材として広く使われています。
そのため、耐熱性よりも耐摩耗性・柔軟性を優先したい用途に適した選択肢であり、高温環境や強い薬品にさらされる用途、あるいはフッ素樹脂と同等の耐熱性能を求める用途の代替候補としては不向きです。
高機能樹脂系コーティング
高機能樹脂系コーティングは、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)などのスーパーエンプラを用いた表面処理です。約220〜250℃前後の耐熱性に加え、耐薬品性・耐摩耗性にも優れており、フッ素樹脂コーティングに近い性能域を持つことから、精密部品など高い信頼性が求められる用途にも使用されています。
ただし、PEEKやPPSという樹脂名だけでPFASフリーかどうかは判断できません。同じPEEK系・PPS系でも、製品によってはPFASを含む添加剤や助剤が使われている場合があるため、成分や仕様の確認が欠かせません。
関西ポリマー株式会社では、PFASを含まない仕様のPEEK系・PPS系コーティングを取り扱っており、求められる耐熱性・耐薬品性・耐摩耗性に応じて適した製品を選択できます。
まとめ
PFASは暮らしや産業を長年支えてきた一方、一部の物質は健康や環境への懸念から規制対象となり、国内外で対応が進んでいます。フッ素樹脂のすべてが対象となるわけではないため、用途や求める性能を踏まえて、必要な部分からPFASフリー化を検討することが大切です。
PFASフリーのコーティングを選ぶ際は、規制への対応だけでなく、非粘着性など必要な性能や、品質、納期まで含めて検討する必要があります。
関西ポリマー株式会社では、無機系・PEEK系・PPS系など、用途に応じて選べるPFASフリーのコーティングを取り揃えています。長年のフッ素樹脂加工で培った知見をもとに、製品や用途に適したコーティングをご提案します。
「PFASフリー化を進めたいけれど、どのコーティングが適しているかわからない」という場合も、まずはご相談ください。技術相談や試作にも対応しているので、品質や納期も含めて、お客様の用途に合った方法を一緒に検討いたします。